民事訴訟法では「本人の押印があれば本人が押印したもの」とする二段の推定という原則があります。しかし、この事例ではこの原則を前提にしながら本人の押印が否定されましたので、二段の推定とともに紹介します。

事案の概要

A社が信用金庫から1000万円の融資を受けるにあたり、信用保証協会に保証委託をして、Bが保証人として保証委託契約書に署名及び押印をしていたところ、信用保証協会から保証債務の請求をしたことを契機として、Bが債務不存在確認訴訟を提起した事案。

※Bの父CはA社と取引関係のある会社の代表取締役を務めていた。

本判決(大阪高等裁判所令和4年6月30日判決)

本判決は、Bの意思に基づいて押印されたことを否定する以下の特段の事情があるとして、本件保証委託契約の真正な成立を否定してBの債務不存在確認請求を認容しました。

  • 本件署名はA社の事務審が、上司の指示に基づいて署名したものであるところ、B自身が署名することが困難である事情がないのに、面識もないA社の事務員に代筆を委ねることは通常では考えられない。
  • B自身はA社と何らの関わりもなく、A社のために本件保証契約を締結すべき理由や動機があったとは考えられない。
  • Bは本件実印につき、父Cからの要請があれば一時的に保管を委ねることがあった。
  • 法的知識に乏しい父CがA社の不合理な説明を信じてBの実印等を交付したとしても不自然ではない。
  • Bは、信用保証協会からの督促書面を複数回受け取りながら特段の対応をしていないが、これをもってBの保証意思を推認する力は限定的なものにすぎない。

※原判決(大阪地方裁判所令和3年12月14日判決)は、上記の事情をもとにしても二段の推定を破る特段の事情はないとして、本件保証契約の有効な成立を認め、Bの請求を棄却しました。

二段の推定とは

二段の推定とは、端的には文書に名義人の押印があれば、通常は本人が押印したものと推定されるという原則のことです。

二段の推定とは、私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によって顕出されたものである場合、反証のない限り、当該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定されるため、民訴法228条4項により、当該文書が真正に成立したものと推定されること

最高裁判所昭和39年5月12日判決

民事訴訟法228条4項

私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

(一段目の推定)
文書の作成名義人の陰影が、当該名義人の印象によって顕出されたものであるときは、反証のない限り、その印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実推定されます。

(二段目の推定)
民事訴訟法228条4項の規定から、「本人の…押印あるとき」にあたり、文書全体の真正な成立が法律上推定されます。

まとめ

二段の推定は、名義人の押印をもって名義人が押印したことを推定するものですが、今回の事案のように実際に名義人が自らの意思に基づいて作成したものかは個別の事情によって判断されます。

本人の押印があるからといっても、必ずしも本人が押印したものにはなりません。

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