何らかの罪を犯し、刑務所に服役することになった場合には、服役中に刑務作業を行うそ対価として作業報奨金が支払われます。では、ある罪の被害者などが加害者などに対して損害賠償を求めるとして、加害者が懲役刑を宣告されたあとに刑務所での受け取ることになる作業報奨金を差し押さえることはできるでしょうか。

作業報奨金とは

作業報奨金は、受刑者が受刑中に刑務作業を行うことの対価として支払われるものです。

毎月、前月分の報酬金を加算していき、受刑者が釈放するときに支給されます。

犯罪白書によれば、受刑者一人当たりの平均支給月額は約4,500円ほどのようです。

原審(広島高等裁判所令和3年11月24日決定)

広島高等裁判所は、以下の4つの理由から作業報奨金の差押えを否定しました。

  • 受刑者の作業報奨金は、釈放時に初めて発生する権利であり、釈放前の受刑者は、釈放の際に作業報奨金の支給を受けることができるという期待権を有するに過ぎない。
  • 作業報奨金制度の目的は、受刑者の釈放後の当面の生活資金を確保し、所持金がないために再犯に及ぶ事態を防止すること。
  • 作業報奨金は発生するか否かを事前に予測することができず、債権発生の確実性を欠く。
  • 作業報奨金について、差押えを禁止する規定はないが、これは作業報奨金請求権の発生時期と支払時期が一致し、差押えを観念する余地がないからであり、差押え禁止の規定がないこともって差押えが可能であると解することもできない。

本決定(最高裁判所令和4年8月16日決定)

最高裁判所は、以下の理由から作業報奨金の差押えを否定しました。

  • 作業を行った受刑者以外の者が作業報奨金を受領したのでは、作業報奨金の支給について定める刑事収用法98条の目的を達することができず、同乗の定める作業報奨金の支給を受ける権利は他に譲渡することができず、強制執行の対象にもならないため、これを差し押さえることはできない。

刑事収用法98条1項

刑事施設の長は、作業を行った受刑者に対しては、釈放の際(その者が受刑者以外の被収容者となったときは、その際)に、その時における報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金を支給するものとする。

以下省略

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条1項

まとめ

ある犯罪の被害者としては、加害者に対する損害賠償請求にあたり、仮に訴訟等を提起して認容の判決を受けたとしても加害者側に財産がないために強制執行に困ることが少なくありません。特に加害者が実刑の判決を受けて刑務所に収容される場合には、受刑中の作業報奨金以外に財産的なものが一切ないことがほとんどだと思います。

作業報奨金の差押えについては今回の最高裁判所決定において明確に否定されましたが、仮にこれが認められるとしても月額4,500ほどの報奨金では被害の回復にはほとんど役立たないかもしれません。

いずれにしても、犯罪の被害者としては被害の回復が受けにくい状況に変わりはありません。

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