2023年4月より自転車運転者について乗車用のヘルメット着用が努力義務になりました。そこで、この義務に違反してヘルメットを着用せずに交通事故にあった場合の過失割合に与える影響について解説します。

ヘルメット着用義務の規定

自転車運転者のヘルメット着用義務に関する規定は道路交通法にあります。

道路交通法63条の11(自転車の運転者等の遵守事項)

1 自転車の運転者は乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。

2 自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットを  かぶらせるよう努めなければならない。

3 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。

過失割合の判断に与える影響

ヘルメットの着用義務に違反して交通事故にあった場合には、自転車を運転した人の過失として過失割合の判断に影響を与えるでしょうか。

これまでの道路交通法は子どもが自転車を運転する場合に、保護者が児童にヘルメットをかぶらせるように努めなければならないというものでした。

そこで、まずは従来の規定のもとでの裁判所の判断を紹介します。

神戸地方裁判所平成31年3月27日判決

なお、道路交通法63条の11(本件事故当時は平成25年法律43号による改正前の同法63条の10)は、努力義務として、当該児童・幼児のヘルメットの着用を定めているにすぎないし、本件事故当時、児童・幼児の自転車乗車時のヘルメット着用が一般化していたとも認められないから、ヘルメットを着用していなかったことを不利に斟酌すべき過失と評価するのは相当でない。

(運転者は12歳)

大阪地方裁判所令和元年10月31日判決

原告は、本件事故当時ヘルメットを装着していなかったと認められるが、児童のヘルメット装着が定着しているとはいえない情勢に照らすと、この事情は過失割合の認定においては影響を及ぼさない。

(運転者は8歳)

このように、改正前の道路交通法のもとでは、ヘルメットを着用していなかった児童について、過失の判断にあたって不利益に扱っていませんでした。

今後について

このように、改正前の道路交通法に関する裁判所の判断を前提とすると直ちに今回の法改正によってヘルメット着用義務の違反が過失の判断に影響を及ぼすとは考えにくいといえます。

ただし、今回の法改正によってヘルメットの着用義務が課されるようになったのは児童以外の成人であることや、神戸地方裁判所や大阪地方裁判所がヘルメットの着用が定着していなかったことを理由にしていることからすると、今後ヘルメット着用義務の違反をもって過失と評価する裁判所が出てきても不自然ではありません。

お気軽にお問い合わせください。045-548-6197受付時間 9:30-17:00 [ 土・日・祝日除く ]

メールでのお問い合わせ