スーパーのお総菜コーナーで売られていた天ぷらが床に落ちており、お客さんが誤ってこれを踏んでしまったため転んで怪我をしてしまいました。この場合に、スーパーに対する損害賠償請求は認められるでしょうか。

事案の概要

本件でのスーパーマーケットでは、天ぷらを種類別に陳列し、客がトングを用いてプラスチック容器に入れる形で、天ぷらを提供していました。

天ぷらが陳列されていた場所はレジに近いところで、本件の天ぷらもレジ前に落ちていました。

事故の時間帯は、レジ担当者7名のほか、17名の従業員と店舗責任者2名が部署において勤務していました。

スーパーでは、開店前に店舗内全体の清掃を行っていましたが、営業時間中の定期的な清掃はマニュアル化されていませんでした。ただし、店舗責任者からは店舗内の整理整頓を行い、異物を見つけた際には速やかに清掃するよう各従業員には告げられていました。

このスーパーを訪れたAは、レジ前に落ちていた天ぷらを踏んで転倒し、右ひざを負傷したため、スーパーに対し、安全配慮義務違反または土地工作物責任があるとして、治療費や通院慰謝料等140万余りを請求しました。

原審(東京地方裁判所令和2年12月8日判決)

スーパーは客に対し信義則に基づく安全配慮義務を負うことを前提に、店舗が混み合い、相当数の客がレジ前通路を歩行することが予想される時間帯においては、従業員にレジ周辺の安全確認を強化・徹底し、レジ前に通路の床面に物が落下した状況が生じないようにすべき義務があったとし、本件天ぷらの落下した状況の発生と継続から、スーパーの安全配慮義務違反を認めました。

そのうえで、客Aも足元への注意を懈怠していたことから5割の過失割合があるとして、請求の一部である57万円余りの請求を認容しました。

本判決(東京高等裁判所令和3年8月4日判決)

  • 本件のスーパーではレジ付近で落下物による転倒事故が起きたことがなかった。
  • レジ前通路は、利用客からの見通しがよく、この通路上に落下物があった、それが混雑する時間帯であっても、利用客は足元の落下物を回避することは特に困難なことではない。
  • レジ担当の従業員からは、レジ前の通路の一部に死角があり、仮に落下物の視認が可能であっても、店舗内が混み合う時間では、レジ前に利用客があり、レジ打ち作業に従事しながら本件天ぷらを速やかに発見し除去することは困難であった。
  • ほかの従業員もいたが、混雑時間帯で利用客の利用を妨げないために店舗内にはいなかったとしても、レジ前通路での本件天ぷらの落下は通常想定しがたいものであって、スーパーに対し、利用客に対する安全配慮義務として、レジ前通路の落下物による転倒事故が生じる危険性を想定して、従業員によるレジ前通路の状況や目視確認や、従業員の巡回を行う安全管理のための特段の措置を講じる法的義務はない。

以上のような理由からスーパーの安全配慮義務違反は否定されました。

そのほか、スーパーの土地工作物責任も否定され、客Aの請求は認められませんでした。

検討

原審では、スーパーの客に対する安全配慮義務違反が認められた一方で、本判決は転倒事故発生の蓋然性や店舗の対応困難性などの理由から安全配慮義務違反は否定されました。

しかし、本件の事情とは異なり、店舗利用客の具体的な危険性が想定される状況であればスーパーの安全配慮義務違反が認められる可能性があります。

実際に、店舗での商品の陳列方法に問題があった事例(東京地方裁判所令和2年11月13日判決)や、店舗の不備で床が水濡れた状態にあった事例(東京地方裁判所令和3年7月28日判決)では店舗の責任が認められています。

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