財産開示手続きは請求認容の判決後、強制執行の対象財産がわからないため本人から財産の所在を聞くという手続きです。この手続きを実施するという決定に対して、弁済などを理由として請求債権が不存在であるとの不服申し立て(=執行抗告)ができるでしょうか。

事案の概要

本件は、債権者が元配偶者である債務者tの間で作成した公正証書に基づき、2人の子に関する養育費債権を請求債権として民事執行法197条1項2号に基づく財産開示の開示を申し立てた事案です。

※民事執行法197条1項2号に基づく財産開示は、知れている財産に対する強制執行を実施しても申立人が完全な弁済を得られないことの疎明があったときに行われるもの。

債務者である元夫は、財産開示決定に対して執行抗告をした上で、請求債権のうち確定期限が到来しているものについて弁済しました。

原決定(東京高等裁判所令和3年9月29日決定)

東京高等裁判所は、

  • 請求債権が弁済によって消滅した場合には、もはや民事執行法197条1項2号に該当する事由があるとはいえなくなる
  • 財産開示手続に強制執行及び担保権の実行に関する規定を準用する民事執行法203条は請求異議の訴えについて規定する民事執行法35条を準用していない

ことなどから、財産開示手続きの実施決定に対する執行抗告において、請求債権の不存在又は消滅を理由とすることができると判断しました。

※請求異議の訴えは、債務名義上の債権が後に不存在又は消滅したことを理由として、判決による執行力の排除を求めるもの

本決定(最高裁判所令和4年10月6日決定)

東京高等裁判所の決定に対し、最高裁判所は、

  • 執行裁判所が強制執行の手続きにおいて請求債権の存否を考慮することは予定されておらず、このことは強制執行の準備として行われる財産開示手続きにおいても異ならない。
  • 民事執行法203条が35条を準用していないことは、民事執行法197条1項2号に該当する事由があるとしてされた財産開示手続の実施決定に対する執行抗告において、債務者が請求債権の不存在又は消滅を主張することができる根拠となるものではない

として、財産開示手続きの実施決定に対する執行抗告において、請求債権の不存在又は消滅を理由とすることはできないと判断しました。

解説

財産開示手続きは、請求認容判決などの債務名義を取得したあと、強制執行の対象となる財産がわからないために相手方を裁判所に呼び出し、財産の所在を聴取する手続きです。

財産開示手続きへの呼び出しを無視した場合には6月以下の懲役または50万円以下の罰金による刑事罰があることから強制力のある手続きとされています。

本決定は要するに、財産開示手続きの実施決定を受けた後、手続きに出頭して財産の所在を述べることや手続きを無視して刑事罰を受けることは避けたいので弁済して実施決定を取り消してほしいということを許さないというものです。

財産開示手続きは、迅速な強制執行の準備として行われることを予定するものであるため、本来訴訟をもって争うべきことを不服申し立ての理由にできてしまうと、本来の目的が失われるので、理由はさておき結論は合理的です。

財産開示手続きの実施決定を受けた債務者としては、弁済などを理由に強制執行から逃れるのであれば、財産開示手続きには出頭したうえで、別途請求異議の訴えをもって債務名義の執行力を争うことになります。

その際、請求異議の訴えに伴って財産開示手続きの一時停止を求めることができるかは未だ争いのあるところです。

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